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アフガンの「ジェンダー・アパルトヘイト」 国連組織の新設で実態記録に期待膨らむ

アフガニスタンで女性と子どもの権利を求める壁画の前を女性が通り過ぎる。
アフガニスタンで女性と子どもの権利を求める壁画の前を女性が通り過ぎる。 2022 Getty Images

女性・女子の迫害などアフガニスタンでの重大な国際犯罪を調査・証拠保全する独立機構の設置に向け、国連人権理事会が準備を進めている。国際法で成文化されていない「ジェンダー・アパルトヘイト」についても、実態が記録されることが期待される。

国連人権理事会(HRC、本部・ジュネーブ)は2025年10月、アフガニスタンでの紛争でなされた重大な国際犯罪を調べる特別機構の設置を決めた。シリア外部リンクミャンマー外部リンクでの前例に沿った組織になる見通しで、4年半前に政権に復帰したタリバンを含め、あらゆる行為主体を調査する権限が与えられている。

新機構の任務は「アフガニスタンで実行された国際犯罪および最も重大な国際法違反の証拠を収集、統合、保全、分析し、公正かつ独立した刑事手続きを促進、迅速化する訴追資料を作成する」ことだ。実際の訴追手続きは、国際刑事裁判所(ICC)や普遍的管轄権を行使する国々の司法機関に委ねられる。

国連人権理事会は当時の報道発表で、タリバンによる「女性・女子への差別、隔離、排除の体系」を特に批判した。アフガニスタンの女性活動家や国際弁護士らは、人権理事会の動きを歓迎。オーストラリアのメルボルンを拠点とする亡命アフガニスタン人弁護士、アザダ・ラズ・モハマド氏は「(新機構の設置は)絶対的に必要なことだと考える。紛争が始まって50年になろうとしているが、さまざま行為主体による残虐な犯罪について、まだ1件も調査が行われていない。大きな期待がかけられており、私自身も慎重に楽観している」と語る。

国連人権理事会のアフガニスタン担当特別報告者、リチャード・ベネット氏も新機構を支持し、これにより欠けていたピースが埋まるとの見方外部リンクを示す。同氏が人権基準に従って報告を行うのに対し、新機構は刑事裁判の基準に従って調査を行い、訴追資料を作成するからだ。

ベネット氏はスイスインフォに対し「(新機構には)包括的な権限がある。歴史をさかのぼり、国際犯罪を実行したあらゆる当事者を調べられるということだ。対象はタリバンにとどまらない。望むなら、旧政権も、北大西洋条約機構(NATO)加盟国や米国といった他国も射程に入る」と語る。

段階的に増員

ジェンダー犯罪を専門とする国際刑事弁護士、サレタ・アシュラフ氏は新機構の設置を心待ちにしながらも、「ただ、優れた実効性を発揮できるだけの資金が与えられるよう望んでいる」と語る。国連は深刻な拠出金の減少に直面しており、前出のモハマド氏も「財源は大きな問題だ。資金を捻出するため政治的意志が求められる」とスイスインフォに語っている。

実際に新機構ができるまでには、まだ長い月日がかかる可能性がある。具体的な条件や枠組みについて議論をまとめ、国連本部の予算承認を取り、人員を採用する必要があるからだ。国連人権理事会は新機構に通常予算を割り当てることを提案し、国連本部の承認を待っている。財政危機を考慮したとみられ、3年がかりで段階的に設立を進める計画だ。ベネット氏によれば、予算案では職員数を1年目に15人、2年目に30人、3年目末までに43人に増やす。設備を整える必要もある。また、人権理事会は通常予算に加え、加盟国の任意拠出による信託基金の創設も求めている。

「女性が生きるのに最悪の場所」

タリバンは2021年8月にアフガニスタンの支配を取り戻して以降、自国の全ての女性・少女に厳しい制約を課し、それを強めている。

アシュラフ氏はスイスインフォに対し、「アフガニスタンは女性が生きるのに最悪の場所と呼ばれてきた」と語る。同氏の言葉を借りれば、アフガニスタンには女子初等教育の否定を含め、ジェンダーに基づく差別、隔離、尊厳軽視、排除が体系的に存在する。「女性は社会生活を禁じられる。国営の公園に行くことは許されず、ラジオやテレビの番組に出演することは禁止され、男性が保護者として同伴しなければ1歩だって外出できない。非常に狭い役割に追いやられるのが一般的だ。まずは子どもを産み、育てる役目を果たすよう仕向けられる。さらには、都合の良い道具として性的搾取や無賃・低賃金労働に使われる」

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ベネット氏は2024年6月、国連人権理事会に提出した報告で、タリバン支配下のアフガン女性の現状は人道に対する罪に相当すると指摘した。同氏は「私が尺度としているのは、国際刑事裁判所に関するローマ規程だ。報告では、特にジェンダー(に基づく)迫害を取り上げた。ローマ規程はジェンダー迫害を人道に対する罪に含めている」と説明する。

ジェンダー・アパルトヘイトとは

亡命アフガニスタン人弁護士のモハマド氏は、同国では体系的な「ジェンダー・アパルトヘイト外部リンク」が行われていると表現する。これは1990年代末に最初にタリバンと闘った人権活動家や弁護士などから受け継がれ、国連などで働く外交官も使っている言葉だ。

ただし、ジェンダー・アパルトヘイトは、まだ一つの犯罪として認められていない。「アパルトヘイト」が(南アフリカでの実例に沿って)人種に基づく残虐行為として、「ジェンダー迫害」は人道に対する罪として、それぞれ国際法に規定されている。実際、国際刑事裁判所はタリバン指導者らへの逮捕状外部リンクをジェンダー迫害を理由に発行した。

前出のローマ規程はアパルトヘイトについて、非人道的行為のうち「ある人種的集団が他の人種的集団を体系的に抑圧・支配する制度化された体制に関し、その体制を維持する目的で行われるもの」と定義している。

ベネット氏は、この定義の「人種」という言葉を「ジェンダー」に置き換えれば、タリバン支配下のアフガニスタンの女性・女子が置かれた状況に当てはまると指摘。ジェンダー迫害が個人による犯罪である一方、「ジェンダー・アパルトヘイトでは国家による行動、政策、法律も含まれる」と説明する。

アシュラフ氏は「アパルトヘイトの成立要件は、体系的な抑圧・支配が存在することと、(その抑圧・支配体制を維持するという)特別な意図のある犯罪であることだ」と強調。ジェンダー迫害とジェンダー・アパルトヘイトの構成事実が共通する可能性はあり、ジェンダー・アパルトヘイトに相当する行為をジェンダー迫害として裁くことはできる。しかし同氏は、現在の国際刑事法では、ジェンダー・アパルトヘイトの実態があっても、それをジェンダー・アパルトヘイトとして裁くことができないと指摘する。

ジェンダー・アパルトヘイトが一つの犯罪と定められることで、抑圧国家による犯罪が広い範囲で認定される。ベネット氏は、これにより国家や企業などに「ジェンダー・アパルトヘイトが指摘されている政権を支持しない」よう望む声が強まると見込む。

世界の非政府組織(NGO)や国際弁護士は今、ジェンダー・アパルトヘイトを国際法上で成文化させる運動に力を入れている。その際たるものが、女性の権利保護に取り組むアフガニスタンとイランの活動家や、世界の法学者、専門家らが主導する国際市民運動「エンド・ジェンダー・アパルトヘイト外部リンク」だ。

長い道のり

ジェンダー・アパルトヘイトは、「人道に対する罪条約外部リンク」の制定を巡る国連本部での議論でも取り上げられている。だが専門家らによると、国連人権理事会の新機構が国際法の整備を直に後押しする可能性は低そうだ。

ベネット氏はジェンダー・アパルトヘイト成文化の動きを支持する一方、新機構の任務とは「ほぼ無関係」だと指摘。両者が結び付くには先に成文化が必要だが、条約の採択は早くても2029年で、そこから各国の批准を経て発効するため、まだ長い道のりが残っていると強調する。

一方、新機構設置に向けた活動に参加しながら、エンド・ジェンダー・アパルトヘイトの法律顧問も務めてきたモハマド氏は次のように期待を示している。「この機構にはタリバンの行いを記録し、ジェンダー・アパルトヘイトの実態があることを示す力がある。調査を行い、それが女性の生き方にどのような影響を与えているのかを示す力がある。女性の基本的人権が国の制度や法令によって禁止され、世界に全く類を見ない状況にあることを示す力がある」

編集:Virginie Mangin/ds、英語からの翻訳:高取芳彦、校正:ムートゥ朋子

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